心臓にペースメーカーを入れると身体障害者手帳の対象になることをご存知でしょうか?

ペースメーカーは脈拍のコントロールが難しい人などを対象に埋め込まれる機械です。

この機械を入れる手術を受けると身体障害者手帳の取得ができるようになるのです。

今回はペースメーカーと身体障害者手帳について、基準や手帳取得後のサービスについて解説していきます。

目次

ペースメーカーとは

ペースメーカーの種類

ペースメーカーとはそもそも心臓の機能を正常に保つことを目的にした、外部デバイスを用いた治療になります。

外部デバイスを用いた治療はペースメーカー以外にいくつか種類がありますので、1つずつ簡単に解説していきます。

  • ペースメーカー

通常、筋肉を動かすには神経を伝って電気信号を受信しないと動きません。

心臓を動かす筋肉=心筋にも当然電気信号が走るのですが、この神経が弱ってしまうことで心臓がうまく動かせなくなってしまうことがあります。

ペースメーカーはこの電気信号を神経の代わりに心筋へ伝えるもので、一定の脈拍を保てるようにする=ペースを保つことから命名されています。

  • 植え込み型除細動器(ICD)

主に心室頻拍や心室細動などといった、発作が起こることで死に至る可能性の高い不整脈=致死性不整脈に対しては、発作時に救命処置が必要となります。

植え込み型除細動器(ICD)はそのような発作が起きた時に自動的に電気ショックを起こし、心臓の動きを正常な状態に戻す役割を担う機械になります。

イメージとしては、近年、様々な場所に設置されているAEDが体内に埋め込まれていったところでしょうか。

  • 心臓再同期療法(CRT)、両室ペーシング機能付き植え込み型除細動器(CRT-D)

心不全を起こすと心筋の収縮が乱れ、心機能が低下することがあります。

この心機能の低下を防ぐために、心筋の収縮ペースを調節するのが心臓再同期療法(CRT)になります。

両室ペーシング機能付き植え込み型除細動器(CRT-D)はCRTにICDの機能を付加させたものです。

ペースメーカー治療の特徴

上記のペースメーカーは体内にそれぞれの状態にあったデバイスを埋め込み、デバイスから伸びたリード線を心臓につなげて心臓の補助をするものです。

手術自体は数時間で終了し、術後の経過が良ければ数日~1週間程度で退院が可能となることがほとんどです。

ペースメーカーは心臓に近い左鎖骨下に埋め込まれることが一般的で、術後はデバイスが体内で固定されるまでの数ヶ月間、左腕を挙げる動きが制限されます。

また、術後は定期的に動作確認のため外来通院を行う必要があります。

特に、ICDのような除細動機能があるデバイスは、発作のためデバイスが作動した場合に受診をしなければならないことも挙げられます。

デバイスは電池式で動くため、電池が切れる頃(おおむね6~10年)に電池交換の手術を受けなければならないことも特徴です。

最近はデバイスも高性能のものが使われ始めており、MRI対応のものなどが出てきていますが、基本的にデバイスを磁気や電磁波に近づけることは避けなければなりません。

携帯電話はデバイスを入れた反対の手で使用しなければなりませんし、電気調理器の使用はできないなど、生活上での制限が出てくることも特徴として挙げられます。

ペースメーカー術後の身体障害者手帳

ペースメーカーを入れた人の身体障害者手帳の取得基準はどうなっているのでしょうか?

身体障害者手帳の取得基準

実は、ペースメーカーを入れるだけで身体障害者手帳に該当になるのです。

心臓機能が元に戻らないために、その機能の補助として入れる機械ですので、入れた瞬間に障害と見なされるのです。

これはどの種類のペースメーカーを入れても同じです。

ただし、障害等級については基準があり、それぞれの状態によって1級・3級・4級のいずれかに該当になります。

平成26年3月までは、ペースメーカーを入れた後の状態にかかわらず1級の身体障害者手帳が取得できていました。

しかし、平成26年4月以降は以下の基準で等級が分けられるようになっているのです。

  • 1級

クラスⅠの状態でペースメーカ等を植え込んだ人
クラスⅡ以下の状態でペースメーカ等を植え込み、メッツの値が2未満の人

  • 3級

クラスⅡ以下の状態でペースメーカ等を植え込み、メッツ値が2以上4未満の人

  • 4級

クラスⅡ以下の状態でペースメーカ等を植え込み、メッツ値が4以上の方

※クラスとは

「不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版) 」(日本循環器学会)のエビデンス(科学的根拠)と推奨度のグレード
クラスⅠ:有益であるという根拠があり、適応であることが一般に同意されている
クラスⅡa:有益であるという意見が多いもの
クラスⅡb:有益であるという意見が少ないもの
クラスⅢ:有益でないまたは有害であり、適応でないことで意見が一致している

メッツ:METs(Metabolic Equivalents)とは
運動時の酸素消費量が、安静時の何倍に相当するかを示す運動強度の単位のこと。
2メッツ未満:ベット等で安静が必要な状態
2メッツ以上4メッツ未満:平地歩行ができる状態
4メッツ以上:早歩きや坂道歩きができる状態

また、ペースメーカー埋め込み後、3年以内に再認定を行う必要があります。

再認定時はその時のメッツの値を上記基準に参照することとなっています。

身体障害者手帳取得後のサービス

ペースメーカー術後の人が身体障害者手帳を取得した場合に、主として利用が考えられるサービスを紹介します。

一部サービスは自治体によって基準が異なることがありますので、詳しくは各サービスの相談窓口に問い合わせるようにしましょう。

  • 公共交通機関の割引

JRやバス・タクシーといった公共交通機関の運賃が割引されます。

JRやバスは半額、タクシーは1割引きになります。

いずれも運賃や切符の支払い時に手帳を提示することで減額されます。

ただし、タクシーの運転手など、一部の人はこの制度を知らない可能性があります。

もし断られた場合はタクシー会社に確認するように運転手へ伝えるなどする必要があります。

ICDを埋め込んだ人は自動車の運転を禁止されるようになります。

そのような人のために公共交通機関を利用しやすくすることが狙いとなっています。

  • 市町村民税や所得税の減免

市町村民税や所得税が、年収額によりますが手続きを行うことで減免されます。

確定申告の際の障害者控除も受けられるようになります。

市町村民税や所得税は市役所へ、障害者控除は税務署へ手続きを行うようになります。

  • NHK受信料の減免

障害等級によりますが、NHKの受信料が申告をすることで減免されます。

全額免除半額免除のどちらかになり、基準は以下のようになっています。

全額免除…身体障害者手帳を持つ人がいる世帯で、かつ、世帯構成員全員が市町村民税(特別区民税含む)非課税の場合

半額免除…障害等級が重度(1級または2級)の身体障害者手帳を所持している人が世帯主で受信契約者の場合

減免の申告は各地域にあるNHKの放送局へ問い合わせましょう。

  • 自動車税の減免

身体障害者手帳を所持している人が自動車を所持している場合、申告により自動車税が減免されます。

本人が運転する場合と家族が運転する場合で基準が異なるので、各地域の問い合わせ窓口に確認しましょう。

  • 医療費の助成

自治体によっては身体障害者手帳の等級によって医療費の助成が受けられる可能性があります。

等級の他に、年齢制限や所得制限がある場合もあるので、こちらも自治体へ確認してみましょう。

  • 障害年金の申請

身体障害者手帳が関係するサービスではありませんが、障害年金の申請ができるようになります。

65歳未満の人で厚生年金をかけている期間に原因疾患を発症し、ペースメーカー等を入れた人が対象になります。

通常は3級相当の障害年金に該当になりますが、身体状況が悪い人やCRT-Dを入れている人は2級に該当することもあります。

詳しくは主治医とよく相談することと、所得制限があるので収入によっては受給できない可能性もあることを覚えておきましょう。

終わりに

ペースメーカーを入れると身体障害者手帳が取得でき、生活上で様々なサービスが利用できるようになります。

病院によっては術後に身体障害者手帳の取得についてMSWから説明を受けられるところもあります。

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手帳を取得して安心した在宅生活を送れるようになりましょう。