「MSW(医療ソーシャルワーカー)を辞めたい・・・」
就職してからそう思ったことが一度もないMSWの方はおそらくいないのではないかと思います。
実際に私も今まで幾度となくMSWを辞めたいと思ったことがあります。
それはふとしたことがきっかけだったり、日々の仕事の中で強く思うことがあったりと様々です。
どうしても耐えられなくなってMSWを辞める時、どのような理由で辞めることが多いのでしょうか?
後ろ向きな内容ですが、自身の実体験と重ねながら、思い切ってこのテーマに切り込んでいきたいと思います。
目次
MSWを辞めたいと思った理由
冒頭でも記載しましたが、なぜ「MSWを辞めたい」と思うのでしょうか?
これは福祉職全般に言えることですが、25歳未満の人の離職が多く、特に入職から3年以内に辞める割合が高いのが特徴となっています。
この傾向に影響する部分も「辞めたい」と思う理由に含まれているのです。
では、具体的にどのような理由があるのか見ていきましょう。
時間内に仕事が終わりにくい!
MSWが担う仕事内容は病院にも寄りますが非常に多いと思います。
患者・家族との面談に関係機関との連絡調整、院内外の会議や対応したことの記録など、限られた時間の中でやらなければならないことがたくさんあります。
仕事の要領が良くなるまでは時間内にこれらを終わらせることは難しく、毎日遅くまで残業することを繰り返すことが多いです。
私もほんの1年前まで上記のような状況で毎日遅くに帰宅することが多かったです。
あまりの忙しさに自分の時間が持てなかったり、体調を崩してしまうこともあります。
とにかくストレスが多い!
病院で働くMSWにとって、ストレスは様々なところから受けてしまうものです。
以下の項目がよくストレスを感じると思うものです。
患者・家族から
仕事上出会う患者・家族は本当にキャラクターが多岐にわたっており、人間としての相性も大きく関わってきます。
MSWがやることすべてに感謝される人もいれば、逆に何を言っても心を開いてくれない人もいます。
病院や地域柄によっては患者としてやってきた、いわゆる“その筋”に近い人とも話をしなければならず、コミュニケーションにおけるストレスが大きいのが特徴です。
また、こういった人は他の機関へ連絡をしても、
「キャラクターが…」
と言われ思うように支援がすすまないこともあります。
いくらMSWと言っても人間なので、こういった合う・合わないということでストレスを感じて辞めてしまうことがあります。
医師から
患者の今後の方針に大きく関わってくるのは医師の存在なしには語れません。
この医師の方針1つで、大きくストレスを受けるかどうかが変わってきます。
例えば、患者支援に関心の低い医師はMSWが行っている支援にあまり協力してくれず、そのことで思うように支援ができないということがあります。
書類の作成1つにしても担当医が「書かない」と言えば、そこを覆すのにはかなりの力量が必要となります。
まだ経験の浅いMSWが喉から手が出るような内容の「医師と上手に付き合うためのマニュアル」なんてものは存在しません。
このコミュニケーションの壁にぶち当たり、ストレスを感じて辞めてしまうのです。
看護師から
一番患者・家族に近い存在と言える看護師ですが、これも人によってはストレスを大きく感じてしまう対象となってしまいます。
医師と同様に退院支援に無関心な看護師からは、
「早くこの患者退院させてよ!」
「MSWでできることは私たちにもできるのよ!」
などMSWにとってキツい言葉を投げかけられることがあります。
看護師も患者・家族や医師からのストレスに晒され、医療系の仕事の中でも離職率が高い傾向にあるのですが、本来手を取り合って支援を行っていくはずの看護師からストレスを受けるのはMSWとしても仕事のやりづらさを感じる大きなポイントになってしまいます。
同僚から
これは職場にもよりますが、同僚であるMSWからストレスを受けることもあります。
MSWとしての力量はどうしても個々で異なってくるのですが、
「こんなこともできないの?」
「自分で何とかしなさい!」
と自分では解決できそうにない問題に親身になって相談にのってくれないことがあります。
もともとMSWは一人職場から成長していった背景のある職種であり、現在でも一人職場の病院は数多く存在します。
そんな環境で仕事をしてきた先輩MSWは
「誰にも相談できない環境の中ここまでやってこれた。だからこの人にもできる。」
という考えを持っている人が中にはいます。
ですが、これは一般企業に当てはめて考えるとかなりおかしな考えであると私は思っています。
何も知らない、経験不足である新人のMSWが頼れるのは、一番身近な先輩MSWであるはずなのに、その先輩が新人育成を放棄しているのです。
右も左もわからない新人に対して何も教えず、口を開けば「どうしてできないの」「自分で何とかしろ」しか言われない環境下で、本当に新人が奮起できるでしょうか?
「あんなに言われて悔しいからもっと勉強するぞ!」
なんて思いを持って頑張るだろう、というスポ根マンガのような甘い考えを持って接しても、全員がスポ根マンガのような反応を示すわけではありません。
「自分は誰にも頼ることができなくて本当に困った…。せめてこの新人にはそんな思いをさせずにしっかりサポートしてあげよう」
と思うのが本当の育成につながるのに…。
給料が少ない!・昇給しにくい!
これは福祉職全般に言えることですが、まだまだ労働の対価に見合った給料をもらうことができていません。
「退院支援は誰にでもできることだから、あえて評価する必要はない」
という考えが長年医療現場で言われ続けており、
「病院では病気を治してナンボの世界。病気さえ治れば退院後の生活は二の次。」
というものが根底にあって語り継がれてきました。
しかし、MSWは退院後もその人の人生は続いていくことから、退院後の生活に重点を置かないと治療をした真の効果が現れないということを訴え続けてきました。
その結果が退院支援加算という診療報酬の枠組みでMSWの存在意義を打ち出したという結果に身を結びました。
しかしながら、これはあくまでMSWの存在が必要であるということを訴えた第一歩に過ぎず、MSWの待遇改善にはまったくと言っていいほど影響が無い状況にあります。
遅くまで仕事をしても、一般企業に勤めている同期より少ない給料しかもらえないという現実から、今後の見通しが立たず仕事を辞めてしまうことがあるのです。
理想と現実のギャップを感じやすい!
どんな職場でも、入職するまでに思い描いていた理想の働き方と、実際に目の当たりにする現実とではギャップが生じてしまいがちです。
憧れの職業になって自分がやりたいことを行うという夢をもつことは大変すばらしいものです。
しかし、あまりにそのギャップが大きすぎると仕事に対するモチベーションが上がらないまま、仕事に対する情熱を失ってしまうという悪い結果につながってしまいます。
MSWになった人はよく、
「患者に感謝されるMSWになりたい!」
「どんな生活問題も解決してみせる!」
という理想をもって就職するのですが、まだ実力がついていない頃は上手な支援は難しく、理想と現実のギャップを感じてしまいます。
“感謝”も感謝される側が狙って行うものではないので、せっかく支援を行っても何も返ってこないことなんでザラにあります。
生活問題もベテランのMSWでさえ困難に思う問題もあるので、最初からすべてうまくいくなんてまさに理想です。
仕事に慣れるまで時間がかかり、その間に様々な挫折を繰り返し、耐えられず仕事を辞めてしまうのです。
患者側と病院側との板挟みになりやすい!
「病気が治るまで入院したい!」
という患者側の思いと、
「入院中に必要な治療は終わったから退院させたい」
という病院側の思いは常に対立するものです。
MSWの役割はこれらの調整にあるのですが、そのためには患者と病院の間に入る必要があり、互いの思いの板挟みになることでストレスを感じることがあります。
これはベテランのMSWであっても感じる課題であり、明確な回答も見つかっていないのが現状です。
互いの主張を聞き、どこを着地点として収拾するのかがMSWとしての腕の見せ所と言えますが、簡単にはいかないのが現実です。
この思いに上記した理想と現実のギャップが絡むことでストレスが発生し、仕事を辞めたいと思う原因となってしまうのです。
MSWの仕事を上手に辞めるには?
どうにも仕事が続けられないと感じ、ついに仕事を辞める決意をした時、MSWとして上手に辞めるにはどうすればよいのでしょうか?
以下にそのヒントを掲載したいと思います。
仕事の辞め方は一般企業と変わらない
退職を決意した際に行う行動は一般企業に勤めている場合と変わりません。
辞める数ヶ月前に上司に辞意を表明し、退職願等を提出して残務整理を行うようになります。
MSWとして行う仕事は患者に直接かかわることですので、退職後の申し送りはきちんと行う必要があります。
退職後も患者の生活は続くので、何があっても引き継いだ人が最低限困らないような状況にはしておきましょう。
MSWの業界は狭い業界だということを意識する
MSWの数は全国でもそれほど多くないため、噂はあっという間に広がります。
例えば喧嘩別れのような形で退職した場合、そのことは瞬く間に他のMSWにも伝わります。
まったく別の職種になる場合はさほど問題は無いのですが、別の病院へ移ろうと考えている場合は就職の際にデメリットになる可能性があります。
円満に退職することが自分の身を守ることにつながることを意識しましょう。
また、再就職後も変わらず付き合いができるようにしておけば、再就職先で困ったことがあっても協力してもらいやすくなるので、日ごろからの付き合いは大切にしておきましょう。
関わっている患者・家族には早めに伝えておく
担当となっているMSWがいなくなることで一番困るのは、支援を受けている患者・家族です。
ある日突然MSWがいなくなったらその人の生活問題はどうなるのでしょうか?
最低限、他のMSWに担当が変わることを伝えておくのは忘れずに行い、無責任な行動だけは慎みましょう。
また、退職後は個人情報の守秘義務があることを忘れず、仕事上で関わった患者・家族の情報は口外しないように心がけることが必要です。
それでもMSWを続けたい!と思うあなたへ
ここまですごくネガティブな内容を書いてきましたが、MSWの仕事がすべて悪いことばかりではありません。
患者・家族からふとした瞬間に感謝されたり、困難な生活問題が解決できた時の達成感は何物にも代えがたいものです。
「仕事は辛いけど、MSWの仕事は続けていきたい!」
と思う人は、以下のヒントを参考にしてみて下さい。
仕事とプライベートを上手に切り離す
解決困難な問題に直面するとどうしてもそのことばかり考えてしまいがちです。
しかし、こういった問題はいくら悩んでも解決しないものがほとんどで、仕事の時間以外でそのことを思っても何もならないのです。
仕事とプライベートの切り替えを上手に行い、休日はしっかりリフレッシュすることが大切です。
病院の機能が自分に合っているか振り返る
今勤めている病院は果たして自分に合った病院でしょうか?
急性期病院と療養型病院では求められる仕事の内容や忙しさは全然異なります。
これはMSWとして勤めていなければわからない感覚からくるものだと思いますので、もし悩んでいるのであれば思い切って全く別の機能を持った病院へ転職することも方法です。
別の病院に行ってもMSWであることは変わらないので、一度気分を変えて仕事を振り返ってみるのも大切です。
就職した頃の気持ちを思い出す
MSWを目指していた時の気持ちはどうだったか、振り返るのも方法の一つです。
何もわからなかったあの時のことを思うと、実は今できていることが多かった、なんてことは良くある話です。
できるようになったことを数えていくことで自信を取り戻すことができるでしょう。
終わりに
いかがでしたでしょうか?
今回解説した内容をまとめると以下のようになります。
- MSWを辞めたいを思う理由は様々なストレスが原因です。
- MSWを辞める時は辞めた後の関係性にも気を付けましょう。
- それでもMSWを辞めたくない時は自分自身を振り返ってみると前向きになれることでしょう。
MSWは大変な仕事ですが、病院に不可欠な職種です。
MSWとしての誇りを忘れず、共に前を向いていきましょう。