医療ソーシャルワーカー(MSW)になるためにはどのような資格が必要なのでしょうか?

医療現場で患者・家族の生活問題をサポートする仕事を担っているMSW。

そんなMSWになるには一体どんな資格が必要なのでしょうか。

今回はMSWになるために必要な資格と取得方法について解説していきます。

目次

MSWに必要な資格とは

必ずしも資格は必要ない!?

さて、上記の題ですが、いきなり冒頭で記載した内容と正反対のことが書かれています。

実は、MSWになるために必要な資格は無いというのが正解なんです。

「じゃあ誰でもなれるの?」と言われると、私ならば「誰でもなれるけど、誰でもなれない」と回答します。

一体どういうことなのでしょうか?

MSWになるための資格要件は法制度上存在しない

上記のような回答をした背景には、MSWになるための資格要件が法制度上存在しないことが理由として挙げられます。

例えば、資格が無いとその仕事ができないという職業が世の中にはたくさん存在します。

わかりやすいところで言えば、医師や看護師はそれぞれ国家資格をもっていないとなれない職業である、といったところです。

しかし、MSWは資格が無い人がMSWの業務を行っても法的に罰せられることも無ければ、資格がないと専門的な仕事ができないというわけでもありません。

実際にMSWとして現場で働いている人で、資格を持っていない人も存在します。

しかしながら、現状はある国家資格を持っていないとMSWとして医療機関に採用されにくいのが主流となっています。

その資格とは、社会福祉士や精神保健福祉士といった、福祉系の国家資格になります。

社会福祉士や精神保健福祉士の資格が必要な理由

ではなぜ、社会福祉士や精神保健福祉士の資格がないとMSWとして採用されにくいのでしょうか?

その大きな理由は以下の2つが挙げられます。

  • 福祉の専門職であることの裏付け

社会福祉士や精神保健福祉士はいわば福祉のプロフェッショナルということを裏付ける、公的に求められた国家資格になります。

合格率も決して高くないこの資格を所持しているということによって、生活問題が起こりやすい医療現場において福祉的な介入を専門職として行うことができるという証明になるのです。

事実として、どのような生活問題が起こり得るのかや、それに対してどう対処すればよいのか、身体の問題だけでなく心理面や経済面など多角的な視野を持って介入することは他の医療職には難しいことです。

そのことを専門として対応できるエキスパートとして、この資格を持った人を医療機関側としては採用したいというのが大きな理由になります。

  • 社会福祉士や精神保健福祉士でないと取れない加算が取れるため

病院の収入は診療報酬と呼ばれる、国が病院へ支払うお金になります。

この金額は、国が定めた基準によって、その病院でどのような治療が行われたかに対して支払われるものです。

病院は診療報酬をもとに、人件費や設備費、必要な薬の購入など病院を運営するために必要な経費の支払いを行うのです。

この診療報酬ですが、近年、病院に勤務する社会福祉士や精神保健福祉士が関与した退院支援に対して加算がとれるような内容に見直されました。

国は「施設から在宅へ」という方針の下、退院支援に力を入れるよう医療機関に明示し、その対価として上記の報酬を定めたのです。

そのため、医療機関側も加算がとれる社会福祉士や精神保健福祉士の配置を求めるようになったことから、これらの資格を持った人をMSWとして優先的に採用するようになっているのです。

社会福祉士や精神保健福祉士の取得方法

上記の通り、MSWになるには社会福祉士や精神保健福祉士の資格取得がほぼ必須であると言えます。

では、これらの資格を取得するためにはどうすれば良いのでしょうか?

福祉系の学校を卒業し受験資格を得る

まずは社会福祉士や精神保健福祉士を取得するための国家試験を受験する資格を得る必要があります。

  • 社会福祉士の場合

基本的には福祉系の大学で指定科目を履修すれば受験資格を得ることができます。

専門学校や短大であれば、相談実務経験を加えて計4年になれば受験資格が得られます。

一般の大学であれば卒業後に社会福祉士養成施設等へ1年以上通うことで試験が受けられるのです。

  • 精神保健福祉士の場合

精神保健福祉士の場合は保健福祉系の大学で指定科目を履修すれば受験資格が得られます。

この保健福祉系というのがポイントで、一般の福祉系大学では受験資格がもらえず、大学の年数と実務経験を合わせて4年以上経過した時点で精神保健福祉士養成施設等へ通う必要があるのです。

また、社会福祉士資格を持っている場合は精神保健福祉士養成施設等へ6ヶ月以上通うだけで受験資格がもらえます。

国家試験を受験する

受験資格を得たら、いよいよ国家試験の受験になります。

社会福祉士・精神保健福祉士ともに国家試験は年1回、例年1月下旬ごろの開催になります。

もし不合格となればまた1年間待たないといけないので、なるべく1回で合格したいところです。

2017年現在、どちらの試験もマークシート方式の筆記試験で、正答率約60%が合格ラインと言われています。

受験科目は共通科目と専門科目の2つがあり、以下のようになっています。

※赤色が共通科目になります。

〇社会福祉士の試験科目

(計19科目、「就労支援サービス」と「更生保護制度」を合わせて1科目群とした計18科目群)

  1. 人体の構造と機能及び疾病
  2. 心理学理論と心理的支援
  3. 社会理論と社会システム
  4. 現代社会と福祉
  5. 地域福祉の理論と方法
  6. 福祉行財政と福祉計画
  7. 社会保障
  8. 障害者に対する支援と障害者自立支援制度
  9. 低所得者に対する支援と生活保護制度
  10. 保健医療サービス
  11. 権利擁護と成年後見制度
  12. 社会調査の基礎
  13. 相談援助の基盤と専門職
  14. 相談援助の理論と方法
  15. 福祉サービスの組織と経営
  16. 高齢者に対する支援と介護保険制度
  17. 児童や家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度
  18. 就労支援サービス
  19. 更生保護制度

 

〇精神保健福祉士の試験科目(計17科目)

  1. 人体の構造と機能及び疾病
  2. 心理学理論と心理的支援
  3. 社会理論と社会システム
  4. 現代社会と福祉
  5. 地域福祉の理論と方法
  6. 社会保障
  7. 低所得者に対する支援と生活保護制度
  8. 福祉行財政と福祉計画
  9. 保健医療サービス
  10. 権利擁護と成年後見制度
  11. 障害者に対する支援と障害者自立支援制度
  12. 精神疾患とその治療
  13. 精神保健の課題と支援
  14. 精神保健福祉・相談援助の基盤
  15. 精神保健福祉の理論と相談援助の展開
  16. 精神保健福祉に関する制度とサービス
  17. 精神障害者の生活支援システム

なお、各科目群のなかに1つでも正答がなかった場合=0点があった場合は、他の科目群の点にかかわらず不合格になってしまいますので注意しましょう。

試験合格後に登録を行う

晴れて試験に合格した後は、資格取得者として登録手続きを行うようになります。

合格通知とともに登録についての案内が届きますので、所定の手続きを済ませることで正式に資格取得者として認定されるのです。

試験合格のためのコツ

毎年の合格率とボーダーライン

最後に、社会福祉士や精神保健福祉士の国家試験合格のためのコツをお伝えします。

筆者である私は4年制の福祉系大学を卒業し、社会福祉士資格を取得しています。

まずお伝えしたいのは、それぞれの試験の毎年の合格率とボーダーラインを知っておくということです。

社会福祉士の場合、合格率は例年25%~30%程度と言われています。

試験は150点満点のもので、正答率60%程度がボーダーラインとなりますので、150点満点中80点台の点数がボーダーラインと言えるでしょう。

上記したように、正答の無い科目群があれば他の科目で満点をとったとしても不合格になってしまいますので、まんべんなく勉強することが必要です。

しかし、各項目とも最低1点は正答できていれば、苦手な科目はある程度間違えても問題ないということです。

得点を稼ぎやすい得意科目はなるべく落とさないようにし、苦手な科目は0点を避けるようにするのがコツと言えるでしょう。

また、ボーダーラインの点数は毎年変更となりますので、確実に試験に通りたい場合は最低でも90点以上の得点を取れるようにしましょう。

一方、精神保健福祉士の合格率は例年60%台と社会福祉士より高くなっているのが特徴です。

これは、すでに社会福祉士の資格を持っている人が受験することもあることが一因として考えられます。

社会福祉士資格を取得している人は所定の手続きを済ませることで共有科目の試験が免除されるのです。

そのため、専門科目の勉強に専念でき、結果として合格率が上昇しているということなのです。

効果的な勉強法の一例

国家試験合格のためには勉強が不可欠です。

ここでは私が社会福祉士に合格した際の勉強法を紹介させていただきます。

前置きになりますが、勉強法は人それぞれで適したものがありますので、参考程度にご覧いただけたらと思います。

基礎の勉強をしっかり行う

まずは当たり前のことですが、各科目の基礎の勉強をしっかり行うことが大切です。

試験では全科目、幅広くかつまんべんなく出題されますので、「ヤマを張る」という勉強法は通用しません。

得意な科目だけでなく、苦手な科目もどこが苦手なのかや、わからない部分を重点的に勉強し穴が無いようにするのがコツです。

模擬試験は必ず受験する

社会福祉士や精神保健福祉士の国家試験対策として、模擬試験を開催しているところがあります。

最低でも1回は何らかの模擬試験を受験し、試験問題や試験中の雰囲気に慣れておくのが良いでしょう。

各団体が開催しているものや、社会福祉士等の科目テキストを発刊している中央法規出版が開催する模擬試験もあります。

各団体の中でも、中央法規出版の模擬試験は本番の試験問題に直結するような質の高いものですので、優先的に受けてみることをオススメします。

模擬試験後は試験問題の解説集ももらえますので、試験の興奮冷めやらぬ間に復習すると身に付きやすくより効果的です。

模擬問題集と基礎勉強の反復

私が試験勉強として使用したのは主に科目テキストと模擬問題集です。

模擬問題集は過去問集とは異なり、その年の出題を予想した全く新しい問題が詰まっています。

本番の試験と同様の形式で数回分の試験問題が収録されていますので、試験時間を図りながら問題を解き、採点後は間違えた問題に関連する科目を科目テキストで勉強していきます。

少し日にちを開けて再度同じ問題を解き、間違えた問題に関連する部分を再度勉強し…という方法を1つの試験問題に対し3回程行います。

その結果、苦手な分野は埋められ、かつ3回程勉強しても間違えた問題は自分の苦手な分野であることがはっきりしますので、その分野を重点的に勉強することで合格率を挙げていくというものです。

私は国家試験の約1ヶ月前からこの方法で勉強を行いました。

試験日から逆算して、試験問題を解く日と勉強をする日の計画を立て、試験が近づいたら試験問題を解く間隔を短くし試験慣れしていきました。

この時に気を付けたのが、まったく手を付けていない模擬問題を1つ残し、試験数日前に力試しとして解くということです。

試験直前で勉強の成果を確認し自信をつけるとともに、修正が必要な科目を残された時間で重点的に勉強することを狙いとしていました。

また、模擬問題集だけでなく、模擬試験の問題も活用して勉強をすすめました。

模擬試験も受験してから間が空くと新しい問題に触れるような感覚で解くことができますので、模擬問題集と組み合わせて勉強することができます。

100点以上の得点を目標にする

本番の試験だけでなく、模擬問題を解く時も常に100点以上を取ることを目標にしていました。

合格ラインを超えるのが90点程度になりますが、そこを目標にしてしまうと捨てるべき科目が増えてしまうという甘えにつながるのではないかと考えていました。

また、100点以上が目標であれば各科目最低2点以上を取ることが条件となってきますので、そのことが本番で0点の科目を出さないようにする予防にもなると考えていました。

実際に本番の試験結果は99点と惜しくも100点越えはなりませんでしたが、合格のボーダーラインを大きく超え安心して試験結果を待つことができました。

試験本番時の注意点

しっかり勉強ができているのであれば、後は本番の試験時にいつもの力を出すだけです。

しかし、年に1回だけの試験で緊張してしまい、普段の力が発揮できないのではないかと不安に思われる方もいらっしゃることでしょう。

そこで、本番でよくある試験時のトラブルと対応策をいくつか紹介します。

会場についての情報を確認する

試験会場がどこにあるのか、どのルートで行くことができるのかを事前によく確認しておきましょう。

基本的に試験は午前中に開催されるので、通勤ラッシュのことも考慮すると安心です。

特に、試験は冬場の開催になるので、試験会場の環境も確認しておく必要はあるでしょう。

私は地元の大きなイベントホールで試験を受けたのですが、非常に空間が広かったのである程度の防寒対策をしておく必要があったことを覚えています。

マークシートの記入ミスに注意

本番のミスで多いのがこのマークシートの記入ミスです。

わからない問題を飛ばして次の問題に行った時に起こりやすいミスで、気づくのが遅れるほど焦りにつながってしまうものです。

回答欄のチェックには常に細心の注意を払っておきましょう。

また、一度問題を解き終わったら再度問題を解きなおしてみることも大切です。

自身が思ったところと違うところにマークしていないか確認する意味があります。

明らかに違う選択肢を排除し正答する確率を上げる

試験問題はすべて選択形式の問題です。

いくつかの選択肢の中から正解の番号を選ぶものですが、正答がわからない問題は勘で解く部分も出てくることでしょう。

しかし、いくら勘と言っても何もせずに解こうとすると4~5つの選択肢の中から1つを選ぶことになるので正答する確率が20~25%と低くなってしまいます。

問題の中には明らかに間違っている回答も含まれているので、問題と選択肢をよく読み、違うことがわかる選択肢は排除することがコツです。

こうすることで、最大で50%の確率にまで正答の可能性を挙げることができます。

 

終わりに

いかがでしたでしょうか?

今回解説した内容は以下のようにまとめられます。

  • 医療ソーシャルワーカー(MSW)は資格が無くてもなれる職業です。
  • しかし、現状は社会福祉士や精神保健福祉士の資格取得がほぼ必須となっています。
  • 社会福祉士や精神保健福祉士は国家試験に合格することで取得できる資格です。
  • 資格取得のための勉強法は人それぞれですが、ヤマカンで通る資格ではありません。

もしMSWを目指している人は社会福祉士や精神保健福祉士の資格取得のために努力してみて下さい。

そして、資格取得だけでなく、福祉の仕事をするための心も忘れないでください。