もしも親であるあなたががんになったら、子どもにどう伝えますか?
がんはなった人もショックを受けますが、周りの人にも精神的な影響を与えます。
特に、親である人がまだ幼い子を抱えている場合、子どもにどう伝えるかで悩むこともあるでしょう。
今回はがんになった時、子どもにどう伝えるかや伝えるタイミングについて解説していきます。
目次
がんと親の心理
突然がんになった親の心理
ある日突然告げられるがん宣告。
その時、患者であり、子の親でもある当事者は何を思うでしょうか。
自身の病状、これからの治療のこと、仕事や家事をどうするか・・・。
そして周囲の人にどう伝えるか。
これはどのがん患者にも当てはまることであり、心理面では当然の反応とも言えるでしょう。
突然の出来事にショックを受け、事態が呑み込めなかったり、あるいは事実を認めようとしなかったりと、とても大きなストレスに対応するべく心が反応するのです。
やがて、病気の治療が始まり、徐々に事態を呑み込んで落ち着いてきた時にふと思うのです。
「子どもに何て言おう・・・今まで何とかごまかしてきたけど、言わなきゃいけないのかな・・・」
そんな時、あなたが患者だったら子どもにいつ、どのようにがんであることを伝えますか?
あるいはがんであることを隠し続けますか?
がんがもたらす心身や生活への影響
がんを患うということは心身や生活に以下のような大きな影響をもたらします。
- 長期間にわたる治療や副作用との戦いによる生活の変化や体力低下
- 治療だけでなく、今後の生活に対する不安
- 治療後の再発に対する不安
- がんになる前の自分との違いを感じる(ボディイメージの変化)
- 治療に伴う経済面への問題
- がんに対する社会的な偏見や間違った認識を当事者として感じる
- いつまで生きられるかという予後への不安
- がんになったことへの自責の念や無力感
これらはがんが見つかった時の状態や治療法、これまで患者自身が抱いていたがんに対するイメージ、生活状況などによって不安の大きさが変わってきます。
いずれもがんになることで浮き彫りになる問題でもあり、また解決に向けて動き出さなければならないものでもあります。
特に、親である立場の患者ががんになった時、個人差はありますが上記の中で一番問題として出てくるものが「がんになったことへの自責の念や無力感」だと考えられています。
「まだ子どもが小さいのにがんになってしまった自分が情けない」
「あの時こうしていたらがんにならなかったかもしれないのに」
「今更悔やんでもどうすることもできない、自分ではどうにもできない」
「自分はダメな親だ・・・子どもに何もしてあげられない」
これらは実際にがんになった親が子どもに対して思う心理であり、病気を克服する上で乗り越えなければならない壁であるとも言えます。
まずは親ががんである自分自身を受け入れること
上記のような心理状態の中で、子どもに親である患者自身ががんであると告げることはかなり難しいことだと思います。
自分自身が病気を受容できていない状態で伝えることは、闇雲に子どもに不安を与えてしまい、あまり良い結果が得られないのです。
自身の病気をしっかりと受け止め、心に落ち着きを持たせることが大切です。
それまでは子どもにがんであることを伝える必要はありません。
がんのことで不安でたまらない、心の整理がつかない、といった状況であれば、悩みが話せる人に勇気を出して話してみましょう。
もちろん、病院の医師や看護師に話しても問題ありません。
かかっている病院によってはがん相談支援センターという専門の相談窓口があります。
自身の心を落ち着けるために、上記のような相談機関を活用してみてはいかがでしょうか?
親ががんになった子どもの心理
では、親ががんになった時、子どもはどのような心理状態になるのでしょうか?
子どもは親を見て育つ
親ががんであることを子どもに話していない時には、おおむね気づかれないことが多いです。
まだがんの進行が早期であったり、日常生活に影響が出ない状況であれば、普段と同じ健康な親という認識でいるので、かえって不自然な動きをすると怪しまれます。
なるべく普段と同じように接し、余計な不安を与えないことがコツです。
しかし、病気が進行してくると状況は変わってきます。
子どもは親が普段と違う様子であると、どうしても気づいてしまいます。
しかし、子どもはほとんどの場合、親にそのことを尋ねることはしません。
何か自分にとって影響することが起きていると感じていても、それを口にすることをどうしても遠慮してしまいます。
薄々、親が病気であることはわかっていても、子どもは親を信頼しているので、親が自身に話してくれるのを待っていることが多いのです。
あるいは、自分のせいで何か良くないことが起こると思う子もいます。
そのような状況の中で、どのタイミングで子どもにどう説明するかが、親子の関係性だけでなく、子どもの成長にも大きく影響してくるのです。
親が病気だと知った時の子どもの心理
がんに限らず、親が病気だと知った時の子どもは次のようなことを思ったり、疑問に感じたりします。
- 親が死んじゃうの?
- 病気はうつるものなの?
- お父さん(お母さん)もそうなの?
- もしかして私のせい?
- 私が悪いことをしたから?
- 誰が私の面倒を見てくれるの?
ドキッとするような内容もありますが、どれも子どもなりに事態を解釈し、推察している内容です。
大人である親でさえ、がんであることに様々な葛藤を抱える中で、子どもは親より少ない知識の中で必死に考えたり、事態を把握しようとしていることを理解してあげなくてはいけません。
そして、上記のような心理状態になった子どもは直接口に出すことは少なく、表情や態度、行動などで不安を表出させることが多いのも特徴です。
今まで以上にわがままになったりする子もいれば、逆に大人ぶったり良い子になろうとする子もいます。
親はこのような態度そのものにとらわれがちですが、実際は態度の背景にある心理に着目しなければなりません。
がんになった時の子どもへの伝え方
子どもに必ず伝える3つのこと
いよいよ、子どもにがんであることを伝える決心がつきました。
しかし、どう伝えたらよいかわからなくて悩む人が多いと思います。
子どもへの伝え方に正解はありませんが、以下の3つのことは必ず伝えて下さい。
以下に書いてあることに気を付けることで、子どもの不安や誤解は少なくとも大きくなることは無くなるかと思います。
自分が“がん”であること
親である自分の病気ががんであることは隠さずに伝えて下さい。
ただ単に「病気」だと伝えると、子どもはどんな病気でも「がん」だと誤解し、病気そのものを怖がってしまうことがあります。
専門的なことまで伝える必要はありませんが、今どんな治療をしているのか、副作用としてどんなことが起きているのかを伝えると、必要以上に病気を恐れたり怖がることはありません。
がんはうつらないこと
がんは風邪と違って他人にはうつらない病気であることを伝えましょう。
これは小さい子どもだけでなく、中学生の子でもうつる病気だと誤解している場合があるからです。
子どもたちの社会では病気がうつるものだと勘違いし、それがもとでからかわれたり嫌な思いをすることも往々にしてあることです。
食事やお風呂、スキンシップもまったく影響しないことを伝え、正しい知識を教えるようにしましょう。
がんになったことは誰のせいでもないこと
がんになったことは子どもはもちろんのこと、誰のせいでもないことをしっかり伝えましょう。
子どもは実際に起きた出来事を理解するために、出来事を自分自身と関連づけ結びつけることが多いです。
そして、自分が行ったことに原因を見出し、ともすれば罪悪感を抱くこともあります。
そのため、がんになったことは決して子ども自身が悪かったわけではないこと、誰かや何かのせいでがんになったわけではなく、何かを憎む必要がないことを伝えることが大切です。
子どもにがんであることを話すと決めたら
子どもにがんであることを話すと決意した時、まずは子どもの人生に「親のがん」というイベントが加わったことを素直に認めましょう。
人生には誕生から死亡までの間に様々なライフイベントがあり、がんになるということはあくまでその中の1つのイベントに過ぎません。
病気になったことへのショックで、一時的に周りが見えなくなることもありますが、少し落ち着いてきたら冷静になってこれまでの人生を振り返ってみましょう。
そして、がんになったことだけが人生のすべてではないことを確認してみましょう。
病気になったことは確かに悲しいことではありますが、病気を通して子どもに大切なことを伝えられる機会を得られたのもまた事実です。
がんになったことを否定的な立場で捉えるのではなく、肯定的な立場から見ることをトライすると、考え方が変わるかもしれませんよ。
子どもに話した後のことを想定する
上記の点を踏まえたうえで、子どもに話す前にもう1つ考えてほしいことがあります。
それは、がんであることを伝えた後の子どもの反応についてです。
子どもの反応は本当にそれぞれ異なっていて、大人が想定した答えが必ず帰ってくることはほぼ無いと思った方が良いです。
また、子どもの年齢によっても伝え方や反応は大きく変わってきます。
そんな時に大切なのが、どのような反応を子どもが示したとしても、決して否定することはせずに受け止めることです。
がんについて子どもに伝えることはある種の気持ちを表出できる場でもあります。
子どもの反応を尊重し、ただ受け止めるだけで良いのです。
そして、病気のことだけでなくどんな治療をしているかについても伝えて、今後どうなるのかをイメージできるようにしましょう。
また、どうしても話したくないことは無理に話す必要はありません。
いずれ話せる時に話せばよいので、余計な緊張はいりません。
そして、がんについて話し終えたら、親としての願いを子どもに伝えましょう。
親が大切な話をしてくれた後の願いを、子どもは決して忘れることはありません。
最後は「ごめんね」という謝りではなく、「ありがとう」と感謝の思いを伝えるのが大切です。
親自身もつらいことを子どもに説明するのはとても勇気がいることですが、悪い知らせを伝える側が知らせを聞いた側の反応を受け止めてあげるのはとても重要なことです。
ここまでできれば、あとは子どもの方が自然と親のことを思ってきっと良い反応を返してくれると思います。
終わりに
がんになったことを告げずに亡くなった親を持つ子の多くは、自責の念や大人への不信感を抱くことがあるという研究結果もあります。
伝え方を工夫することで上手に病気のことを理解できるのもまた事実です。
もし子どもへの告知に悩んでいるのであれば、最寄りのがん相談支援センターやMSWへ相談してみて下さい。
1人で悩まず、気軽に相談してみましょう。