身近な人ががんになったと知った時、あなたはその人にがんであることを告知しますか?
がんについて告知をするかどうかはその人にとって考え方が違う問題です。
そして、がんであることを知った時にどうすれば良いのかとても悩む問題であるとも言えます。
今回はがんの告知について、告知の影響と伝え方を解説していきます。
目次
がんの告知をするかどうかの判断
医療者側は治療のため告知をすすめる
そもそも、がんであることを一番最初に告げるのは主治医です。
これまで行ってきた検査の結果とともに、病名が何であるか、どのような病状でこれからどのような治療を行うのかを説明するようになります。
どんな治療でもそうですが、緊急を要する状態でない限り、治療は患者の同意が無いと始めることができません。
がんの場合も同様で、抗がん治療を行う場合は必ず本人にがんであることを告げる必要があるのです。
しかし、がんに限っては患者自身ががんであることを知りたくないと希望していることも少なからず存在します。
その場合、本人に一番近い存在である家族に対して病状説明が行われ、本人への告知や治療方針について相談するようになります。
本人だったらどうしてほしいかを考える
患者ががんであることを知った時、それを伝えるかどうかの判断基準としてほしいのは、患者自身がどうしてほしいかを考えてみるということです。
告知をされる患者が普段どんな性格でどう伝えるのが望ましいのかを想像してみて下さい。
例えば、隠し事が嫌いで自分に関することはたとえ悪いニュースであっても知りたいと言っている人に、がんであることを隠すのはあまり望ましくないことだということは容易に想像できることでしょう。
逆に、がんに対しての不安が強く、伝えた瞬間に立ちどころにショックを受けてしまうような人には、ストレートにがんであることを伝えるのではなく、どこまで伝えるのか、いつ伝えるのかといった配慮が必要なこともわかると思います。
上記の判断をするために、日ごろから患者との間のコミュニケーションがとれているか、患者の価値観をよく把握しているかが重要となってきます。
伝える側の感情を混同していないか振り返る
「本人がどう思っているかを想像する」と上記しましたが、ここで気を付けなければならないのが、伝え手側の感情が混じっていないかを振り返るということです。
がんになったことでショックを受けるのは本人だけでなく、周囲の人も同じです。
患者本人のことを思わなければならないのに、気が付けば支えなければならない自分自身の心が揺らいでいるということはよくあることで、これは決して悪いことではなく当然の反応と言えます。
伝え手側が十分に状況を受け止めることがもちろん大切ですし、それができたら本人への告知をどうするか客観的に振り返ってみることも必要です。
よく「本人に言うとショックを受ける」と話す家族がいます。
本当にショックを受ける人であればもちろん伝え方に配慮するなどのアドバイスを送りますが、中には状況を聞くと本人はすべてを知りたがっていると話される家族もいます。
これは本人に言うとショックを受けるのではなく、本人に伝えることで出てくる本人の反応が怖いという伝え手側の感情が混同してしまっている例です。
しっかりと伝え手側が病気を受容することと、本人の意向は何だったのかを軸に考えることが大切です。
身近な人から患者にがん告知をする時の伝え方
では、実際に身近な人から患者にがんについて告知する時の伝え方はどうしたらよいのでしょうか?
治療して完治が見込めるのであれば告知するのが望ましい
告知をする時のがんの状況にもよりますが、例えば治療を行うことで完治する見込みが十分ある場合、告知をした方が望ましい可能性が高いです。
ここで私がはっきりと「告知をするべきだ」と言い切らないのは、告知をすることで精神的なショックを大きく受けてしまう人が存在するからです。
せっかく治療することで完治が見込めても、ショックのあまり投げやりな状態になったり、パニックになったりしてしまうと治療の効果が出ない可能性があります。
その人の性格や病気に対する受け止め方は患者を支える周囲の人が配慮する必要があるのです。
この配慮ができれば、治療をすることで完治が望めるので、告知をするべきだと考えます。
もちろん、告知後に待っている治療への不安や様々なサポートは欠かせませんので、告知した後もフォローし続けることが大切です。
がんが進行している場合はどこまで話すか検討する
逆に、がんが進行しているような状態であれば、どこまで話すかを考えなければなりません。
抗がん治療を行うのであれば少なくともがんであることは伝えなくてはならないのです。
抗がん治療は手術や抗がん剤、放射線など、体に負担がかかったり頻回な通院を必要としたりする治療のため、病名の告知をしておかないと患者自身に怪しまれるからです。
また、がんの進行のため予後告知をするかどうかというような状態の場合も、予後を伝えるかどうかを検討する必要があります。
繰り返しにはなりますが、本人がどこまでの告知を望んでいるのかをよく把握しておき、対応することが求められます。
医療者から患者に伝えてもらう
なかなか患者に家族から伝えることが難しいという場合には、医療者から患者本人に伝えてもらうという選択肢も考慮しましょう。
その時に大切なのは、告知をする場に家族も同席することです。
告知をしてショックを受ける患者もいますので、その時に支えてあげる人が必要だからです。
また、家族と一緒に話を聞くことで、後から「あの時あのように言ってたね」などと説明を確認できたり、言った・言ってないの押し問答が起こる可能性も抑えられます。
逆に、医療者側から伝えずに家族から伝えると決めた場合に、どのように話したらよいかわからなかったら医療者に伝え方を尋ねてみるのも方法です。
特にこれまで関わりが長い医療者がいる場合は、どのように伝えると良いかというアドバイスをもらえることでしょう。
告知をすることの効果
これからの生活を具体的に考えられる
最後に、病気の告知をすることでどのような良い効果が得られるのかを解説します。
まずは今後の生活について具体的に考えられるようになるということです。
がんになるという出来事はショックなことでも、そこでいつまでも立ち止まることはできません。
日々の生活は時間が流れるのを待ってくれないように進んでいきますので、がんの治療を組み込んだこれからの生活を考えることが大切です。
病気について知っていると知らないのとでは、その後に何をしなければならないのか、どんな問題があってどう解決しなければならないのかを考える作業に差が出てくるのです。
患者本人の人生は最終的には患者自身が決めるものです。
その決定のために考える時間を多く作ってあげることが支える側としてできるとても大切なことです。
病気の受け止めを早期に行える
患者自身ががんに対する受容を早期に行えるという利点も挙げられます。
人間が新たなストレスを感じた時、それに適応するまである程度の時間を要します。
適用までの間、心理的に不安定な時期を過ごすことになりますが、これは早ければ早いほど適用した後の時間を長く過ごすことができるようになるのです。
特にがんは治療をしても進行する可能性のある病気であり、少しでも早く病気を受け止めて治療に専念することがとても大切だと言われています。
最初の精神的に不安定な時期をサポートしてあげることで、その後の生活が充実したものになることでしょう。
隠し事をしている罪悪感が無くなる
これは伝え手側にとってのメリットですが、病気に限らず、身近な人や大切な人に隠し事をしながら過ごすのはとても精神的に負担がかかるものです。
このようなデリケートな問題を抱え続けるのは、伝え手側が「ああでもない、こうでもない…」と悩み続け、良くない結果になってしまう可能性があるのです。
必要以上に心配をしてしまっていることも少なからず考えられる場合もあるので、本当に告知をしないで過ごすのが良いことなのか、一部分だけでも伝えた方が良いのかなど、柔軟な対応が可能かどうかを検討してみるのはいかがでしょうか。
終わりに
がんの告知はとても重要なことであり、また一番悩まれるところだと思います。
迷ったり悩んだりした時は一人で抱え込まずに誰かに相談することを考えましょう。
がんについての相談窓口はがん相談支援センターや病院のMSWが挙げられます。
上記の機関を上手に活用してみましょう。