地域包括ケアとはどういうものなのでしょうか?
前回は地域包括ケアの背景と概要について解説しました。
もしご覧になられていない方は以下の記事をご確認ください。
そして今回は地域包括ケアシステムの具体的な内容について解説していきます。
目次
地域包括ケアシステムの狙い
地域包括ケアシステムの狙いは厚生労働省が提示しているPDFファイルに掲載されています。
これが一体何を指すのかを解説いたします。
地域包括ケアシステムが目指すもの
おさらいになりますが、地域包括ケアシステムは2025年を目途に、高齢者が重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい最期が迎えられるように、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステムの構築を目指すものです。
このシステムの構築には上記した「住まい・医療・介護・予防・生活支援」の5つの整備が必要とされています。
この5つの内容について詳しく見ていきましょう。
住まい
高齢者が最期まで地域で過ごせるための居場所です。
自宅で最期を迎えられる方は年々減少傾向にありますが、近年は自宅での看取りに着目し、その数を増やしていこうとする動きがあります。
できるだけ長く自宅で過ごすには、高齢者の身体状況にあった住宅環境を整備することが必要です。
わかりやすいのは介護保険を利用した福祉用具のレンタルや購入、自宅内をバリアフリーな環境に整える住宅改修が挙げられます。
また、自宅の環境が上記のような取り組みで改善できないような場合には、高齢者向けの環境をあらかじめ整えているサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)というものもあり、そこに入居して過ごすことも取り組みの中に含まれています。
医療
高齢になるほど病気のリスクは増大し、複数の病気を抱えながら生活するという状況が当たり前のように発生します。
そのため、高齢者が長生きできるような医療体制を整える必要があります。
病状が落ち着いていたり、経過観察で良い状態の場合は地元のかかりつけ医にかかり、健康管理を図ります。
そして、緊急の状態になったり、専門的な治療が必要となった時には地域の連携病院にて急性期治療を行い、その後の状態によってリハビリ病院への転院や再度かかりつけ医へ戻ることを目的としています。
この仕組みの狙いは、急性期病院への受診が集中することを避け、かかりつけ医への受診を増やすことにあります。
その理由は、急性期病院の役割の特化(真に急性期治療を必要とする人への対応を専門とする)と、患者とかかりつけ医との関係性を高め、気軽に体調変化について相談できる場を作ることです。
このことが、病気の早期発見・早期治療につながるとともに、急性期病院の外来待ち時間の短縮や、各医療機関の役割特化でその時患者に必要な医療を提供しやすくすることにもつながるのです。
介護
介護が必要となった時のサービスについてです。
これまでは施設入所型のサービスが多かったのですが、近年は地域で過ごしながら介護を受けるという流れにシフトしているのが特徴です。
特に、地域包括ケアシステムでは認知症高齢者を地域で支えるということを打ち出していますので、高齢者の生活スタイルに併せた多様性のあるサービスが求められています。
訪問介護(ヘルパー)や訪問看護等といった自宅への訪問系サービス、デイサービスやデイケアといった通所系サービスをうまく組み合わせ、在宅生活を続けやすくすることがこのシステムでの狙いになっています。
特に、訪問系サービスと通所系サービスを1つの事業所で一体的かつ柔軟に提供できる小規模多機能型居宅介護や、それに看護面のサポートを加えた看護小規模多機能型居宅介護が注目されており、その数も少しずつではありますが増え始めています。
予防
介護を必要とする状態にならないための予防に力を入れるというものです。
これは介護保険などの公的なサービスを利用して行うのではなく、自発的な活動によって予防を行うことを指しています。
自ら運動することで介護予防を行うなどといった個人の努力だけでなく、ボランティア活動や町内会、老人クラブといった民間の活動団体による予防策も含まれます。
特に、地域包括ケアシステムではこの民間による活動を推奨しており、互いに助け合う「互助」の概念を前面に出しているのが特徴です。
生活支援
介護を必要とする人の生活を支援するというものです。
ここでの支援は予防策と同様に、介護保険など公的なサービスではなく民間による活動を指しています。
近所付き合いによる支えあいに始まり、NPO法人などによる見守りサービスなど、その幅はとても広いものとなっています。
地域包括ケアシステムの捉え方
厚生労働省は地域包括ケアシステムが目指すものをこのような図で植木鉢に例えて表現しています。
この説明は「住まい」と「生活支援」があるからこそ、「医療」「介護」「予防」という専門的な部分が効果を発揮するというものを示しています。
しかし、実は本当に大事なのは、植木鉢の下にある「本人・家族の選択と心構え」という部分であることは触れられていません。
そもそも、地域で最期を迎えたいという選択は本人・家族が思わないと実現することがありません。
そして、本人・家族がそう思うようになるには、住んでいる地域に安心して最期を迎えられるような住居やサービスが整っていることが必須となってくるのです。
現在、これから増える高齢者の受け皿としてきちんと機能できる地域はまだまだ少なく、課題も多いとされています。
地域包括ケアシステムは、そんな本人・家族の思いが実現できるような地域づくりを、国だけでなく国民全員で作っていこうという考えを打ち出したものなのです。
地域包括ケアシステムの構築のプロセス
では、地域包括ケアシステムの構築のプロセスは何なのでしょうか?
PDCAサイクルによる構築
地域包括ケアシステムは地域の実態把握や、出てきた問題を解決することをPDCAサイクルによって対応することを提唱しています。
まず、地域の問題を把握するために、地域住民のニーズ調査や地域ケア会議の開催、医療機関との連携等を行います。
そして、出てきた課題や利用ができそうな社会資源(地域独自の取り組みやリーダーとなる人材等)をもとに、課題を解決するための事業計画や具体案を作成していきます。
できあがった計画や案は実行した後、地域への影響を確認のうえ、修正を繰り返すようになります。
この取り組みの狙いは、その地域に合った課題の抽出と独自の解決策を生み出すことにあります。
つまり、国の大きな制度ではカバーできない細かい部分の支援を担えるような仕組みを地域が作ることを目的としているのです。
地域包括支援センターが主体となる
この地域包括ケアシステムの構築には、各地域における高齢者の総合的な窓口となる地域包括支援センターが大きな役割を担っています。
地域包括支援センターは介護保険制度の開始に伴い設立されたもので、高齢者の権利擁護や介護予防、地域の支援体制の整備なども目的としている機関です。
地域包括支援センターは規模の大きい自治体では中学校区ごとなど、地域住民が相談しやすいように、より身近なところに設置されることもあります。
そのため、地域の事情をよく理解している公的機関として、地域包括ケアシステムの構築にかかわるよう位置付けられているのです。
終わりに
地域包括ケアシステムの具体的な内容をまとめると以下のようになります。
- 「住まい・医療・介護・予防・生活支援」の5つをシステムの軸にし、整備を行う。
- 地域で最期を迎えたいと思えるような「本人・家族の選択と心構え」ができる地域づくりを目指す。
- 各地域独自の問題とそれに対する解決策を地域が考え、PDCAサイクルのもと運用していく。
この地域包括ケアシステムの運用について、国は「地域ケア会議」を行うことを推奨しています。
次回はこの地域ケア会議について解説していきます。