地域包括ケアという言葉をご存知でしょうか?

この言葉は近年ますます進行している高齢化社会を乗り越えるために国が掲げている取り組みのことです。

今回は地域包括ケアが必要となった背景と概要について解説していきます。

目次

地域包括ケアが必要となった背景

地域包括ケアが必要となった背景については厚生労働省のホームページにPDFファイルで掲載されています。

しかし、「図がごちゃごちゃしててわかりにくい!」「数字ばっかりで頭が痛くなる・・・」と思わず言ってしまう方も少なくないような内容で、見づらいものとなっています。

そのため、各ポイントに絞って、何を厚生労働省が伝えたいのかを解説したいと思います。

高齢化社会の進行

日本は他の国に比べ、人口の高齢化が進むスピードが速いとされています。

2015年現在、高齢者と定義されている65歳以上の人口は約3,395万人であり、日本の総人口の26.8%、つまり4分の1を占めるようになりました。

この割合は2012年の高齢者人口の3,058万人(24.0%)からわずか3年で約3%の上昇を認めており、このペースでいくと2025年には3,657万人(30.3%)、2055年には3,626万人(39.4%)と約4割の人が高齢者という計算となっています。

特に、75歳以上の人の割合に絞ると、2015年の時点で1,646万人(13.0%)であるのが、2055年には2,401万人(26.1%)と約2倍の割合となるのです。

これはいわゆる団塊の世代が高齢者となることが要因の1つとして挙げられるほか、同時に進行している少子化によって若年層の人口が減少し、相対的に高齢者人口の割合が増えることも影響しています。

認知症高齢者の増加

高齢化社会を考える上で切り離せないのが、認知症になる高齢者のことです。

2015年現在、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上(日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが家庭外で多少見られても、誰かが注意していれば自立できる状態、と定義)の人は345万人で、65歳以上の高齢者の10.2%がこの状態に該当となっています。

これが10年後の2025年には470万人となり、65歳以上高齢者の12.8%が該当するとされています。

10年間でその割合が約2.5%増加することが見込まれており、介護を必要とする人が増えるとされています。

高齢者のみの世帯の増加

近年の生活スタイルの変化により、一人暮らしの高齢者世帯や高齢者夫婦のみの世帯が年々増加傾向にあります。

2015年には上記2つの世帯が全体の23.1%を占めていましたが、2035年には28%に増加することが見込まれています。

これは、同居家族が高齢者を支えることができる世帯が徐々に少なくなってきていることを意味するのです。

75歳以上人口が都市部でより増加する

75歳以上の人口の割合が今後増加すると上記しましたが、特に都市部でその割合が大きくなることが予想されています。

東京都やその周辺の県、愛知県や大阪府などは2025年には現在の約1.6~2倍に増加するとされているのです。

以前は都市部へ出稼ぎに出ていた人が退職し、地方の実家へ戻り最期を迎えるということが多かったのですが、都市部で生まれ育った人が高齢者となったことで、都市部で最期を迎える人が増えるとされています。

「肩車型」社会の到来

年金制度を例に挙げると、1965年は65歳以上の高齢者1人に対して、20~64歳の若年層は9.1人と、高齢者を支える人数が非常に多い状況でした。

しかし、少子高齢化社会の進展により、2012年には高齢者1人に対し、若年層の割合が2.4人にまで減少しました。

そして、2050年には若年層の割合が1.2人にまで減少するとの予想が立てられており、高齢者1人を若年層の人1人が支える「肩車型」社会が到来するとされています。

定年の引き上げ子育て支援という政策は、こうした「肩車型」社会への対策として、支える必要のある高齢者の数を減らし、若年層の負担を軽減させることを目的としているのです。

 

介護保険制度の限界と高まるニーズ

上記のような日本の未来が予想される中、取りざたされる問題は何があるのでしょうか?

財政面の問題

2000年から始まった介護保険制度は3.6兆円の予算をもって開始され、保険料も全国平均で毎月2,911円の負担で済んでいました。

しかし、介護を必要とする高齢者は年々増加傾向にあり、それに伴い必要な予算やサービスを賄うための保険料も増加していきました。

このままのペースで増加し続けた場合、2025年には21兆円の予算が必要で、保険料も毎月8,200円程度を要する見込みになっています。

これは制度開始当初の金額に比べると、予算だけで約6倍、保険料は約3倍弱も増加しているという計算になるのです。

要介護者・要支援者の増加

介護保険制度が開始した2000年4月、介護保険で認定を受けた人の総数は218万人でした。

そこから11年経った2011年4月には、総数508万人と約2.3倍の人数に増えています。

その中で介護サービスを利用している人は413万人もおり、制度開始当初に比べると非常に多くの人が介護を必要としています。

そのため、要介護者へのサポートを行う人材も相応の数を必要としていますが、現状としてその数は圧倒的に足りていないのです。

特に、介護認定を受けている人は年齢が上がるとともに増加し、80歳以上になると約3割の人が、90歳以上は約7割弱の人が何らかの介護認定が下りているのです。

本人・家族の介護ニーズ

「自宅で介護を必要とする状態になった場合にどこで過ごしたいか」という質問に対し、介護を必要とする本人の4分の3が何らかの形で自宅で過ごしたいと回答しています。

また、介護をする家族側も8割が自宅での介護を望んでいるのです。

ここでの違いは、介護を必要とする本人はなるべく家族に迷惑をかけない形でサービス利用をしたい人が多いのに対し、家族は家族による介護と外部サービスと併せて生活したいと考えている点です。

この場合の主介護者は子であることが多く、子に迷惑をかけたくないという親心が影響しているのではないかと考えられています。

地域包括ケアシステムと概要

地域包括ケアシステムとは

以上のように、介護を取り巻く状況は一刻も早く改善に向けて動かなければならないものということがわかりました。

そこで国が打ち出したのが「地域包括ケアシステム」というものです。

これは介護を必要とする高齢者が住み慣れた地域で自分らしい最期を迎えられるような社会づくりをしていくことを目指したものです。

そして、そのためには各地域で住まい・医療・介護・予防・生活支援についてのサービスが包括して(=まとまって)受けられる仕組みが必要という方針を立てているのです。

この地域包括ケアシステムは以下の4本の柱を立て、取り組みを行うことを提唱しています。

地域包括ケアシステムの4本柱

①自助

「自分で助ける」と書いて自助と呼びますが、これは高齢者自身が介護を必要とする状態にならないために努力するということです。

つまり、介護を必要とする状態にならないようにすることを他人任せにするのではなく、自分でできることは自分でする、自分の健康管理は自分で行うということを提唱しているのです。

この予防策には介護保険サービスを使わず、市場のサービスを利用することを推奨しています。

②公助

「公が助ける」と書いて公助と呼びます。

生活保護など、国や地方自治体の制度・サービスによる支援のことを指します。

③共助

「共に助ける」と書いて共助と呼びます。

介護保険制度を例にとれば、保険加入者から集めた保険料を、介護が必要な人のサービス料に充てるというものです。

つまり、制度に関わる人同士で共に助け合うというものです。

④互助

「お互いを助ける」と書いて互助と呼びます。

「共助」と意味は似ていますが、地域包括ケアシステムの概念では「互助」はボランティア活動や近所づきあいなど、国や地方自治体が関係していない自発的な活動を指して言います。

 

そして、この4本柱のうち、国や地方自治体がかかわっている「公助」と「共助」は財政面などの問題で拡充が難しいことから、「自助」「互助」の役割を増やしていこうとしているのが目的となります。

終わりに

地域包括ケアシステムの背景や概要を簡単にまとめると以下のようになります。

  • これからますます少子高齢化がすすみ、既存の制度・サービスでは十分な支援を行うことが難しくなる。
  • その一方で、地域で最期まで過ごしたいというニーズは高くなっている。
  • この状況を解決するために、地域で最期まで過ごすことができる仕組み「地域包括ケアシステム」の構築を行った。
  • 「地域包括ケアシステム」は国や地方自治体の役割だけでは賄いきれない部分の支援を、患者本人や地域住民全体で解決できる仕組みを作っていくことを目的としている。

このように、地域包括ケアは今後の私たちの生活に密接にかかわってくる内容となっているのです。

次回はこの地域包括ケアシステムの具体的な内容について解説していきます。